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東京地方裁判所 平成8年(ワ)24194号 判決 1999年3月29日

フランス国

ルヴァロア ペレ セデックスリュー アナトール フランス 一四九番

原告

アシェット フィリパキ プレス ソシエテ アノニム

右代表者

ベルナール マンフロア

右訴訟代理人弁護士

関根秀太

藤木美加子

後藤康淑

藤井康広

惣津晶子

右訴訟復代理人弁護士

武藤佳昭

石村善哉

東京都世田谷区奥沢一丁目二五番一二号

被告

有限会社ドールス(以下「被告ドールス」という。)

右代表者取締役

坂本和雄

東京都世田谷区奥沢一丁目二五番一二号

被告

坂本和雄(以下「被告坂本」という。)

大阪府大阪市中央区谷町五丁目六番九-九〇一号

被告

黒田昭平(以下「被告黒田」という。)

大阪府大阪市中央区内久宝寺町三丁目三番六号

被告

株式会社ホライゾン(以下「被告ホライゾン」という。)

右代表者代表取締役

和泉辰男

広島県広島市東区光町一丁目九番一一号

被告

株式会社ラパロール(以下「被告ラパロール」という。)

右代表者代表取締役

深川義治

右訴訟代理人弁護士

桝井信吾

主文

一  被告ドールス及び同坂本は、別紙第一標章目録(二)記載の標章を付した下げ札及び別紙第二標章目録記載の標章を付した織ネームを、衣服に使用させるために製造し、譲渡し、又は引き渡してはならない。

二  被告ホライゾンは、別紙第一標章目録(二)、別紙第二標章目録及び別紙第三標章目録(一)ないし(五)記載の標章を付した衣服を製造し、販売し、販売のために展示してはならない。

三  被告ラパロールは、別紙第一標章目録(一)、別紙第二標章目録、別紙第四標章目録(一)及び(二)並びに別紙第五標章目録記載の標章を付した衣服を製造し、販売し、販売のために展示してはならない。

四  被告ドールス、同坂本、同黒田及び同ホライゾンは、原告に対し、連帯して、金二二五万二八六三円及びこれに対する平成九年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告ラパロールは、原告に対し、金四〇万七二六四円及びこれに対する平成九年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

六  原告の被告らに対するその余の請求を、いずれも棄却する。

七  訴訟費用は、原告に生じた費用の五分の一と被告ラパロールに生じた費用のそれぞれを二分し、その各一を被告ラパロールの負担とし、その余を原告の負担とし、原告に生じた費用の五分の四と被告ドールス、同坂本、同黒田、同ホライゾンに生じた費用をそれぞれ三分し、その二を右各被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

八  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  主文一ないし三と同旨

二  被告ドールス、同坂本、同黒田及び同ホライゾンは、原告に対し、連帯して、金一〇八〇万円及びこれに対する平成九年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告ラパロールは、原告に対し、金一八〇〇万円及びこれに対する平成九年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、商標権者である原告が、別紙第一標章目録(一)及び(二)、別紙第二標章目録、別紙第三標章目録(三)ないし(五)、別紙第四標章目録(一)及び(二)並びに別紙第五標章目録記載の各標章(以下、各標章を順に「被告標章一(一)」ないし「被告標章五」といい、これらをあわせて「被告標章」という。)を付した被服(以下「被告商品」という。)を製造、販売等する被告らの行為が、右商標権を侵害する行為であると主張して、原告が、被告らに対し、右行為の差止め及び損害賠償の支払を請求した事件である(第一、二の請求は、原告について生じた後記損害の一部である。)。

一  前提となる事実(証拠を示した事実を除き、当事者間に争いはない。)

1  原告の商標権

原告は、以下の商標権(以下、「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標」という。)を有する(甲一(枝番号は省略する。以下同様とすることがある。))。

登録番号 第二一三一〇六九号

出願日 昭和五七年五月一七日

登録日 平成元年四月二八日

指定商品 第一七類 被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)

登録商標 別紙第二商標目録記載のとおり

2  被告らの行為

(一)被告坂本は、被告ドールスの代表者であり、実質的に単独で被告ドールスを経営している(被告黒田、同ホライゾンとの関係では、弁論の全趣旨)。

被告坂本は、平成六年九月ないし一〇月ころ、被告標章一(二)に類似する標章をワンポイント刺繍し、被告標章一(二)を表示した下げ札及び被告標章二を表示した襟首織ネームを付したポロシャツ五〇〇枚を製造、販売した(被告黒田、同ホライゾンとの関係では、弁論の全趣旨)。

(二) 被告黒田は、被告ホライゾンの従業員である。

被告ホライゾンは、フリーダムこと田村一弥(以下「フリーダム」という。)に対し、ポロシャツ、ティーシャツ、トレーナー、セーター等の被服に、被告標章三(一)又は(二)等を刺繍し、被告標章一(二)を表示した下げ札と、被告標章二を表示した織ネームを付す等の加工作業を委託して、被告商品二万〇九三三枚を製造し、また、別の業者に対し、ティーシャツ、トレーナー等の被服に被告標章三(三)ないし国をプリントし、被告標章一(二)を表示した下げ札と被告標章二を表示した織ネームを付す等の加工作業を委託して、被告商品四〇六〇枚を製造し、さらに、右業者から、被告標章一(二)を表示した下げ札と被告標章二を表示した織ネームが付されたティーシャツ、トレーナー等の被告商品合計一万三三六三枚を仕入購入した。被告ホライゾンは、右のとおり製造又は購入した合計三万八三五六枚の被告商品を販売した。(被告坂本、同ドールスとの関係では、弁論の全趣旨)

(三) 被告ラパロールは、被告標章一(一)を表示した下げ札と、被告標章二を表示した織ネームが付され、被告標章四(一)、(二)が刺繍されるなどの加工がされ、又は、被告標章五の付された被告商品を販売した(甲三の五、七及び一〇、一四の三、六及び七、一八、一九、弁論の全趣旨)。

(四) 被告らが標章を付して製造、販売した被服は、本件商標権の指定商品の範囲に含まれる。

二  争点

1  被告標章は本件登録商標と類似するか。

(原告の主張)

被告標章は、欧文字の「ELE」を横書きした下側に、極く小さい欧文字で「SPORTS・CLUB」又は「SPORTS CLUB」を横書きしたものである。被告標章は、「ELLE」の部分とその他の部分とが一連一体に結合したものと認識することはできず、別紙第一商標目録記載の商標(以下「原告商標」という。)の著名性等を考えあわせると、被告標章のうち、「ELLE」が一般需要者の注意を引く部分であり、その称呼は「エル」である。

よって、被告標章は本件登録商標と類似する。

(被告らの反論)

原告の主張は争う。

2  被告坂本、同ドールス、同黒田、同ホライゾンの行為は不法行為を構成するか。各被告間に、本件商標権の侵害につき、共同不法行為が成立するか。(原告の主張)

被告坂本は、遅くとも平成六年六月初めころまでに、被告標章一(二)を使用した被服等の製造、販売を企画し、被告ドールスの名義で、平成六年六月八日、別紙第三商標目録記載の商標(以下「被告出願商標」という。)につき、指定商品を第二五類に属する商品として、特許庁に商標登録出願(以下、「被告商標登録出願」という。)をした。そして、平成六年九月ないし一〇月ころ、被告標章一(二)を表示した被服用の下げ札(以下「本件下げ札」という。)及び被告標章二を表示した襟首織ネーム(以下「本件織ネーム」という。)を各約二万五〇〇〇枚製作し、フリーダムに預けて保管させた。被告黒田は、被告ホライゾンの「会長」として、被告坂本との間で、被告標章の使用許諾を受けるための交渉を行い、被告坂本は、平成六年九月ないし一〇月ころ、被告ホライゾンが被告標章一(二)及びこれに類する標章を付した被服を製造、販売することを許諾し、被告黒田に対し、被告商標登録出願に係る商標登録願の写し及び出願番号通知書の写しを交付した。被告坂本は、被告黒田又は被告ホライゾンから、直接又はフリーダムを介して、本件下げ札及び本件織ネームの交付の申込みを受け、フリーダムをして、本件下げ札及び本件織ネームを被告ホライゾンに納品させた。

被告坂本は、被告ドールスの本件商標権侵害行為につき、実質的に単独で、意思決定をし、実行していた。

被告黒田は、被告ホライゾンにおいて「会長」との肩書を有し、被告ホライゾンの事実上の主宰者かつ表見代表取締役として、取引上の重要事項につき意思決定し、また、被告ホライゾンの本件商標権侵害行為を自ら実行し、被告ホライゾンの役員や他の従業員らに指示して実行させた。

以上のとおり、被告坂本は、不法行為責任又は有限会社の不法行為に対する取締役の責任、被告黒田は、不法行為責任又は表見代表取締役としての責任をそれぞれ負う。被告ドールス、同ホライゾン、同坂本、同黒田の各行為は、共同不法行為を構成する。

(被告坂本、同ドールスの反論)

原告の主張は争う。

(被告ホライゾン、被告黒田の反論)

被告黒田は、被告ホライゾンの主宰者でも役員でもなく、単なる従業員にすぎない。

3  被告黒田、同ホライゾン、同ラパロールには、本件商標権の侵害につき、過失がなかったか。

(被告黒田、同ホライゾンの主張)

同被告らは、被告商標登録出願が、弁理士により、充分な調査を経て行われていることを知り、被告出願商標が登録されると信じていたのであり、同被告らには、本件商標権を侵害することにつき、過失がなかった。

(被告ラパロールの主張)

被告ラパロールは、仕入先である株式会社インターナショナル・トレーディング・カンパニー(以下「ITC」という。)の代表者から商標登録願を示され、被告標章は、登録出願中であり、原告の商標権を侵害することはない旨の説明を受け、また、他の大手販売会社も「ELLE SPORT・CLUB」の標章を付した商品を販売していることから、被告商品を販売しても、原告の商標権を侵害することはないと考えて、被告商品を取り扱うこととしたのであり、同被告には、本件商標権侵害に対する予見可能性がない。(原告の反論)

被告らの主張は争う。被告標章は被告出願商標とは、字体、構成を大きく異にしていることは明らかであり、弁理士を代理人として出願された商標が拒絶されることは多々あり、他の大手販売会社による販売の事実も、本件商標権侵害の可能性を何ら排斥するものではない。

4  損害額

(原告の主張)

(一) 被告ドールス、同坂本、同黒田、同ホライゾンの賠償すべき損害額

(1) 主位的主張

被告ホライゾンは、三万八三五六枚の被告商品を販売した。原告から本件商標権の使用許諾を受けたライセンシーの同種製品(ティーシャツ、ポロシャツ及びトレーナー)の卸売価格は、平均すると五四二五円である。また、日本における本件商標権の使用許諾に対して、使用料として売上高の六パーセントが、広告宣伝費として売上高の一パーセントが支払われているが、本件のような商標権侵害行為についての使用料としては、通常の使用料の一・五倍である一〇・五パーセントとすべきであり(商標法三八条一項、三項)、また、少なくとも、通常の使用料と同率である七パーセントとすべきである。

その額は以下のとおり、一〇・五パーセントを乗じて算定すると、二一八四万八五三六円となり、予備的に七パーセントを乗じて算定すると、一四五六万五六九一円となる。

5,425×38,356×0,105=21,848,536

(一円未満は切り捨てとする。以下、同様とする。)

5,425×38,356×0,07=14,565,691

(2) 予備的主張

被告ホライゾンの被告商品の平均販売価格は、約八二五円である。

原告の被った使用料相当額の損害額は、被告商品の販売総額に右(1)記載の使用料率一〇・五パーセントを乗じて算定すると三三二万二五八八円となり、予備的に、通常の使用料率七パーセントを乗じて算定すると、二二一万五〇五九円となる。

825×38,356×0.105=3,322,588

825×38,356×0.07=2,215,059

(二) 被告ラパロールの賠償すべき損害額

被告ラパロールは、ITCから、被告商品を購入し、大三紳士服株式会社(以下「大三紳士服」という。)、中商事株式会社(以下「中商事」という。)、丹羽幸株式会社(以下「丹羽幸」という。)及び株式会社院長(以下「院長」という。)に対し、被告商品を販売した。

大三紳士服が原告に提出した「答弁書」及び資料には、同社は、平成七年九月一四日付けで被告商品を被告ラパロールから一七六〇枚仕入れた旨記載されており、また、返品に関する記載はない。

中商事は、原告に対し、被告ラパロールから仕入れた被告商品が、トレーナー六六〇枚、ティーシャツ九二〇枚、合計一五八〇枚であることを明らかにおり、また、返品があったことは述べていない。

丹羽幸の取引先は、原告に対し、平成七年八月九日及び同月三一日、丹羽幸から被告商品を合計一三八〇枚仕入れたことを明らかにしている。

以上によると、被告ラパロールの被告商品の販売数量に関する主張は信用できない。被告ラパロールの実際の販売数量は、少なくとも同被告がITCから仕入れたと主張する一万〇二四〇枚の二倍である二万〇四八〇枚を下回ることはない。

また、被告ラパロールは、ITCから仕入れた被告商品のうち八四四一枚をITCに返品し、返金を受けた。右返品行為は、ITCによる被告商品の再度の販売行為を可能にしてこれを助長するものであり、被告ラパロールの取引先に対する販売行為とは別に、新たな本件商標権侵害行為となる。よって、右返品八四四一枚が販売数量に追加され、被告ラパロールが販売した被告商品は合計二万八九二一枚である。

原告の被った損害額は、(一)(1)記載のとおり、原告の同種製品販売額に、使用料率一〇・五パーセントを乗じて算定すべきであり、その額は以下のとおり、一六四七万四一二四円となり、また、少なくとも、同種製品販売額に使用料率七パーセントを乗じて算定すべきであり、その額は以下のとおり、一〇九八万二七四九円となる。

5,425×28,921×0.105=16,474,124

5,425×28,921×0.07=10,982,749

よって、ラパロールは、原告に対し、原告に生じた右損害金を支払うべき義務がある。

(被告ホライゾン、同黒田の反論)

原告の主張は争う。

(被告ラパロールの反論)

被告ラパロールは、平成七年八月一日から同年九月九日にかけて、ITCから被告商品を合計一万〇二四〇枚、代金合計一二七二万七〇〇〇円で購入し、そのうち八四四一枚(九八七万三九五六円相当分)を返品した。

被告ラパロールが販売し、返品を受けた被告商品の数量は以下のとおりである。

<1> 大三紳士服に対し、平成七年九月一四日、トレーナー一六五〇枚(代金合計三三〇万円)を販売し、同年一〇月二七日以降、このうち一〇五四枚(二一〇万八〇〇〇円相当分)の返品を受けた。

<2> 中商事に対し、同年九月五日、トレーナー四四〇枚(代金合計七二万六〇〇〇円)を販売し、同月一八日、このうち四二九枚(七〇万七八五〇円相当分)の返品を受けた。

<3> 丹羽幸に対し、同年八月一八日から同年九月五日までに合計三七六六枚(代金合計六二五万九八〇〇円)販売し、同月二五日以降、このうち三二八〇枚(五〇六万七〇五〇円相当分)の返品を受けた。

<4> 院長に対し、同年八月一八日から同年九月九日までに合計三二七六枚(代金合計五一六万九二〇〇円)販売し、同月二二日以降、このうち三一〇二枚(四九六万一八五〇円相当分)の返品を受けた。

原告主張の損害額算定方法は争う。

第三  争点に対する判断

一  争点一(被告標章と本件登録商標の類似性)について

1  本件登録商標は、欧文字の「ELLE」を横書きし、「LL」の下方に、欧文字よりも小さめの片仮名の「エル」を横書きしたものである。右「ELLE」は、縦長の欧文字で構成されており、各欧文字の横線の右端部分に縦方向に拡大されたひげがあり、また、各欧文字の縦線は、横線に比べて太いという特徴がある。本件登録商標からは、「エル」の称呼を生じる。

2  被告標章は、別紙第一ないし第五標章目録のとおりであり、いずれも、欧文字の「ELLE」を横書きした下方に、欧各文字よりも、極めて小さい欧文字の「SPORTS・CLUB」ないしは「SPORTS CLUB」を横書きしたものである。

被告標章のうち、「SPORTS・CLUB」ないしは「SPORTS CLUB」の部分は、他の部分に比べて、極めて小さい文字で表示されていこと、右は運動愛好団体又は運動施設等を意味し、識別機能は少ないと解されること、原告は、日本国内の多数の企業に、被服を含む各種商品の製造、販売につき原告商標の使用を許諾し、原告商標は右各種商品の商標として著名であること(甲一六)等の事情を考慮すると、一般需要者は、被告標章のうち「ELLE」の部分に商品の出所表示機能があると認識するものと認められる。よって、被告標章の要部は、いずれも「ELLE」の部分であると解すべきである。

そこで、本件登録商標と被告標章の要部とを対比するに、その称呼は「エル」であって同一であり、本件登録商標の欧文字部分と被告標章の要部の外観は、いずれも「ELLE」であって同一であるか、又は類似する。したがって、被告標章はいずれも本件登録商標と類似し、被告標章を付した被告商品を製造、販売等する行為、被服に使用させるために、被告標章を表示する下げ札、織ネームを製造、販売する行為は、いずれも本件商標権の侵害行為に該当する。

二  争点2(共同不法行為等)について

1  前記第二、一の事実及び証拠(甲五、六、八、一三、一五、乙ロ一、一一、一二、一三、二〇、乙ニ一、二、被告黒田本人、弁論の全趣旨)によると、次の各事実が認められる。

(一) 被告坂本は、遅くとも平成六年六月初めころまでに、被告標章一(二)を使用した被服等の製造、販売を企画し、被告ドールスの名義で、平成六年六月八日、被告出願商標につき、指定商品を第二五類に属する商品として、特許庁に商標登録出願をした。

被告坂本は、平成六年九月中旬ころ、本件下げ札及び本件織ネームを各約二万五〇〇〇枚製作し、そのうち各五〇〇枚を使用してポロシャツを製造し、その余の本件下げ札及び本件織ネームについてはフリーダムに預けて保管させた。

(二) 被告黒田は、被告ホライゾンに勤務する以前に被服関係の会社の代表取締役をしていたこともあり、被服の取引についての経験が長く、被告ホライゾンの設立にも関与しており、平成四年に被告ホライゾンが設立した当初から入社して、営業を担当していた。被告ホライゾンは、社長を含め六人程度の従業員からなる小規模な会社であるが、被告黒田は、被告ホライゾンの経営に関する事項の決定に深く関与している。

(三) 被告黒田は、フリーダムを介して、被告商標登録の出願を知り、被告黒田と被告ホライゾンは被告標章を使用した商品を取り扱いたいと考え、被告黒田が、被告坂本との間で、被告ホライゾンが被告標章の使用許諾を受けるための交渉を行った。平成六年九月ころ、被告ドールスは、被告ホライゾンに被告標章一(二)及びこれに類する標章を付した被服を製造、販売することを許諾し、被告ドールスと被告ホライゾンとの間で、右標章の使用料として、随時注文に応じて、フリーダムで保管中の本件下げ札及び本件織ネームを各一枚一五円、一組三〇円で被告ホライゾンに交付する旨の合意をした。被告坂本は、そのころ、被告黒田に対し、被告商標登録出願に係る商標登録願の写し及び出願番号通知書の写しを交付し、これらを被告ホライゾンの顧客に開示、交付することを承諾した。また、被告ホライゾンは単独で、同被告及び被告ドールス間の、平成六年九月一日付け、被告出願商標に関する商標使用許諾契約書を作成した。

(四) 右許諾に基づき、被告ホライゾンは、フリーダムに対し、ポロシャツ、ティーシャツ、トレーナー、セーター等の被服に、被告標章三(一)又は(二)等を刺繍し、本件下げ札と本件織ネームを付す等の加工作業を委託して、被告商品合計二万〇九三三枚を製造したほか、フリーダムから本件下げ札及び本件織ネームを購入した。また、別の業者に対し、ティーシャツ、トレーナー等の被服に、被告標章三(三)ないし(五)をプリントし、被告標章一(二)を表示した下げ札と被告標章二を表示した織ネームを付す等の加工作業を委託して、被告商品四〇六〇枚を製造し、さらに、右業者から、被告標章一(二)を表示した下げ札と被告標章二を表示した織ネームが付されたティーシャツ、トレーナー等の被服合計一万三三六三枚を仕入購入した。被告ホライゾンは、右のとおり製造又は購入した合計三万八三五六枚の被告商品を販売した。

被告黒田は、被告ホライゾンが被告商品の販売を行うに当たり、取引先に対し、右契約書の写し、右出願番号通知等の写しを交付した上、被告出願商標については被告ドールスが商標登録出願中であり、被告ホライゾンが被告ドールスから使用許諾を受けているから、商標権侵害の問題を生じるおそれはない旨述べて、取引を勧誘した。

(五) 原告から被告ホライゾンの取引先に対し、被告標章の使用が本件商標権の侵害に当たる旨の警告があったことから、被告黒田は、被告坂本に対し、被告出願商標に関する商標使用許諾契約書の作成を依頼し、被告坂本は、平成七年九月ころ、被告黒田から、印鑑の押捺されていない被告ドールスと被告ホライゾン間の、平成六年一〇月一日付け商標使用許諾契約書を受領し、右契約書に被告ドールスの代表者印及び社判を押捺して、被告ホライゾンに交付した。

2  右認定した事実を基礎として、被告ドールスらの不法行為責任の有無を検討する。

被告ドールスは、被告商標登録出願を行った上で、被告ホライゾンに被告標章の使用を許諾し、右許諾に基づいて被告ホライゾンは被告標章を付した被告商品の製造、販売を行ったこと、被告坂本は、被告ドールスの代表者であり、右許諾を行ったのも被告坂本自身であることに照らすならば、被告ドールス及び同坂本の各行為は不法行為を構成する。

被告ホライゾンの前記各行為は、商標権侵害行為として不法行為を構成する。被告黒田は、被告ホライゾンの従業員であるが、同被告の実質的な経営者として行動し、被告坂本と被告出願商標の使用許諾を得るために交渉したり、取引先に前記契約書等の書類を示し、被告ホライゾンが被告出願商標の使用許諾を受けている旨説明して、取引の勧誘をするなど、被告ホライゾンの本件商標権の侵害行為につき、積極的かつ中心的に活動していることに照らすならば、同被告の各行為は、不法行為を構成する。そして、右行為態様に鑑みれば、被告四名の各行為は、共同不法行為に当たる。

三  争点3(過失の有無)について

被告黒田、同ホライゾン及び同ラパロールは、それぞれ被告商標登録出願の経緯を知った事情に照らして、過失がない旨主張する。

確かに、被告黒田及び同ホライゾンは、被告ドールスから被告出願商標の使用許諾を受けるに際し、被告坂本やフリーダムから商標登録願の写し等を交付され、右商標が弁理士によって商標登録出願中である旨説明を受けたこと、また、被告ラパロールは、被告商品の取引を始めるに際し、仕入先から商標登録願を示され、被告出願商標は、登録出願申請中であり、原告の商標権を侵害することはない旨の説明を受けたことが認められる(甲八、一三、一五、乙ロ一、一一、一二、二〇)。

しかし、原告商標の著名性、被告標章と本件商標との類似性の程度からすると、右事実をもって、同被告らに過失がなかったと解することは到底できない。この点における同被告らの主張は採用できない。

四  争点4(損害額)について

1  被告坂本、同ドールス、同黒田及び同ホライゾンについて

被告ホライゾンは、三万八三五六枚の被告商品を販売したこと、被告商品の平均販売価格は八二二円であること(被告商品の販売代金合計一九四六万七四五四円を販売数量二万三六六〇枚で除して算定した。)、原告は、日本国内の企業等に対し本件商標権につき使用許諾する場合、その使用料として売上高の六パーセント、広告宣伝費として売上高の一パーセントを取得していることが認められる(甲一六、弁論の全趣旨)。

右認定事実及び被告らの本件商標侵害の態様等一切の事情を考慮すると、原告の被った損害は、被告商品の販売価格八二二円に販売数量三万八三五六枚を乗じて算定した売上高に、一〇パーセントの使用料率を乗じて算定した額を相当とする。なお、原告は、損害額の算定に当たり、原告から使用許諾を受けたライセンシーの同種製品の卸売価格を基礎とすべきである旨主張するが、採用の限りではない。

そうすると、損害額は、以下のとおり、三一五万二八六三円となる。

822×38,356×0.1=3,152,863

ところで、被告ホライゾンは、被告商品の一部を株式会社タニイに販売したが(原告と被告黒田、同ホライゾンとの間では争いがない。被告坂本、同ドールスとの関係では、弁論の全趣旨。)、原告は、既に、株式会社タニイから、九〇万円の損害賠償を受けている(争いがない。)。

よって、右各被告らが賠償すべき原告の損害額は、右金額を控除した二二五万二八六三円及びこれに対する不法行為以降の日である平成九年一月二一日から支払済みまでの民法所定の遅延損害金額となる。

2  被告ラパロールについて

(一) 被告ラパロールが販売し、返品を受けた被告商品の数量は以下のとおりである。

(1) 同被告は、平成七年九月一四日、大三紳士服に被告商品一六五〇枚を三三〇万円で販売し、同年一〇月二七日以降、合計一〇五四枚の被告商品の返品を受けたと認められる(乙ハ二、六)。

なお、大三紳士服が、被告商品の取引に関する書類として、原告代理人に提出した書類の中には、同社が被告商品を一七六〇枚発注した旨記載されたものがあるが(甲一七の二)、右証拠から、発注した商品が全部納品されたとまでは認められない。

(2) 同被告は、中商事に対し、平成七年八月七日から同年九月一〇日の間に、合計一五八〇枚の被告商品を販売し、同月一八日、被告商品四二九枚の返品を受けたと認められる。

この点、同被告は、中商事に対する被告商品の販売数量は四四〇枚(代金七二万六〇〇〇円)である旨主張し、右主張に沿う証拠(乙ハ三)があるが、甲一八号証の記載に照らして採用できない。また、右証拠には、中商事は、平成七年九月一一日以降は、被告商品の仕入販売は行っていない旨記載されており、同社が、同日以降、被告商品を被告ラパロールに返品したことが推認されるところ、仕入返品伝票によると、中商事は同月一八日、被告商品を四二九枚返品したと認められる(乙ハ七)。

(3) 同被告は、丹羽幸に対し、平成七年八月一八日から同年九月五日の間に、被告商品合計三七六六枚を合計六二五万九八〇〇円で販売し、同月二五日から同年一一月八日の間に、被告商品合計三二八〇枚の返品を受けたと認められる(乙ハ四、八)。

なお、丹羽幸の取引先が原告代理人あてに提出した回答書には、被告商品の取引に関し、平成七年八月九日及び同月三一日に丹羽幸から被告商品を一三八〇枚仕入れた旨記載されているが(甲一九)、仕入業者と購入業者との間で帳簿上の日付の異なることもあり得るというべきであるから、右記載により、前記の認定が左右されるものとはいえない。

(4) 同被告は、院長に対し、平成七年八月一八日から同年九月九日までの間に、被告商品合計三二七六枚を合計五一六万九二〇〇円で販売し、同月二二日から同年一〇月一三日までの間に、被告商品合計三一〇二枚の返品を受けたと認められる(乙ハ五、九)。

(5) なお、同被告は、右各販売先から返品を受けた被告商品について、さらに、ITCに返品しているが(乙ハ一、一〇)、同被告の右行為をもって、本件商標権に対する侵害行為と評価することは相当でない。

(二) 以上のとおり、被告ラパロールが販売した被告商品は、販売数量から返品数量を控除した二四〇七枚であること、被告商品の平均販売価格は一六九二円であること(被告商品の販売代金合計一五四五万五〇〇〇円を販売数量九一三二枚で除して算定した。)、前記のとおり、原告が日本国内の企業等に対し本件商標権につき使用許諾する場合の使用料等が売上高の合計七パーセントであることが認められる。

右認定事実及び同被告の本件商標侵害の態様等一切の事情を考慮すると、原告の被った損害額は、被告商品の販売価格一六九二円に販売数量二四〇七枚を乗じて算定した売上高に、一〇パーセントの使用料率を乗じて算定した額を相当とする。原告は、損害額の算定に当たり、原告から使用許諾を受けたライセンシーの同種製品の卸売価格を基礎とすべきである旨主張するが、採用の限りではない。

そうすると、同被告が賠償すべき原告の損害額は、以下のとおり、四〇万七二六四円及びこれに対する不法行為以降の日である平成九年一月二一日から支払済みまでの民法所定の遅延損害金額となる。

1,692×2,407×0.1=407,264

五  よって、原告の請求は、主文で認容した限りにおいて理由がある。(被告ラパロールに対する被告商品製造の差止請求についても、相当と認められる。)

なお、被告黒田、同ホライゾンは、原告の平成九年六月二五日付けの訴えの交換的変更申立に対し異議を申し立てているが、右変更後の請求は変更前の請求と請求の基礎を同一とするものであり、右申立は理由がない。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 沖中康人)

別紙第一商標目録

<省略>

別紙第二商標目録

<省略>

別紙第三商標目録

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別紙第一標章目録

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別紙第二標章目録

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別紙第三標章目録

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別紙第四標章目録

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別紙第五標章目録

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